書評『電気料金はなぜ上がるのか』朝日新聞経済部


 今日は本当に涼しい夜で、原発なしでまた夏が過ごせたなあと、しみじみ思う。原発はいらないし、全部廃炉にしたらいいし、国全体で見ればそれで経済的にもトクするんだが、電力会社と銀行がそれを許さない。なんと勝手なやつら。


 書評シリーズ最後の1冊は、

電気料金はなぜ上がるのか (岩波新書)

電気料金はなぜ上がるのか (岩波新書)

  『電気料金はなぜ上がるのか』 朝日新聞経済部、岩波書店

 原発報道では批判されることも多い朝日新聞。一抹の良心を期待して読む前に出会ってしまった、かの池田信夫氏の書評。

電気料金がなぜ上がるのかというタイトルなのだから、値上げの原因が書いてあるのかと思ったら、電力会社の人件費が高いとか、動いてない原発でもいろいろな費用がかかるとか、業界団体の会費がどうとか書いてあります。こういう話はすべて電気代がなぜ高かったのかという説明としては意味がありますが、値上げとは何の関係もありません。( http://blogos.com/article/68834/

 んんん? 変な話だなあ。

 イケノブさんの批判はいったんおいて、この本は、きわめてジャーナリスティックに電気代の裏側に迫っていて、いい内容だ。

 たとえば総括原価方式。電力会社は今後の電力販売量の見込みと、それに対してかかる製造原価の見込み金額から、1kWhあたりの価格を決めることができる。

 私が電力会社なら、1000kWhの電気を、1万円かけて作るので、単価は1kWhあたり10円です、という具合。

 しかしどっこい、もしも見込みの販売量より多く売れたり、原価が安く済んだりしたら、差額は電力会社の財布に入る。実際、2011年までの10年間に、東電だけで6000億円が浮いて、自由に使われているのだという(消費者には還元されない!!!)。

 そして金を無尽蔵に食うのが、原発とセットの再処理事業だ。電事連はこのコストを19兆円と見積もった。しかしこれから再処理する予定の3.2万トンの使用済核燃料から生まれるMOX燃料4800トンの価値は9000億円。20分の1以下の価値しかない。もちろん19兆円というのは、控えめな試算だ。

 この本でおもしろいのは(というと違和感があるけど)、廃炉費用の計算だ。

 原発は、運転しながら廃炉費用の積立をしているが、それは発電した期間の分だけなのだ。だから積立の状況はまちまちで、関西電力美浜1号機などは、積立金不足額が95億円もある。運転開始から3年後の73年に燃料棒が折れる事故を起こしたり、なにかと事故、故障が多くて運転期間が短いのだ。

 しかも、そういう原発ほど、できるだけ長く運転したくなるのが恐ろしいところだ。途中で廃炉にすると、積立も足りないし、減価償却の済んでいない資産=原発を損失に繰り入れなければならなくなるからだ。

 さて、イケノブさんの批判に戻ると、これはいわゆる、「ためにする議論」というものでしょう。この本の計算では、「動いてない原発」の費用が、東電だけで2012年度に4296億円かかっている。

 これは1kwも発電していない原発にかかる費用だ。火力の燃料費が高くついても、そこからは電気が生まれているから費用対効果が計算できるけれども、原発の場合は、ドブに金を捨てているだけだ。電気代を値上げしないためにどっちを捨てるかと言ったら、本来原発をなくすべきだけれども、こういう人は原発を使いつづけることが頭の前提になっているので、つい「値上げとは何の関係もありません」などと書いてしまうのだろう。

 それって、東電の論理そのものじゃないか。

 今、経産省廃炉による電力会社の損失を、私たちの電気代で補填しようとしている。電力会社に巨額の貸付をしている銀行の責任=貸し手責任を問わず、株主の責任を問わず。

 私たちはこれに絶対反対すべきだと思う。電気代の支払いをかけて、とにかく意思表示をしよう。

 いまこそ電気代不払いを!